【直6DOHC】インプレッション
信号加速では意識してアクセルを踏まないと出遅れる。でも、回転の伸びが気持ちいい
まずは直6を積んだW140のS320。車重は1940㎏とデビュー当初よりは若干軽量化されてはいるものの、比較対象のW220より210㎏も重い。この時代のメルセデスらしい重くセッティングされたアクセルの効果もあって、走り出しはとにかく重たい印象が否めない。ストップ&ゴーの繰り返しになる市街地では、青信号のスタートで他のクルマにリードされないように走ろうと思うと、ちょっと意識してアクセルを踏み込んでやらないと確実に出遅れる。しかし40㎞/hを超えたあたりからの伸びは気持ちの良いもので、さすがこのあたりは直6ユニットらしさを感じるところ。回転数と共にトルクとパワー感がリニアに盛り上がって行く。エンジンパワーに対して車重があるS320なので、とかくアクセルを踏み込むシーンが多い分だけ、このリニア感を楽しめるのがいいところ。ATの変速プログラムもエンジンに良くマッチしていて十分に回るまでギアを引っ張ってくれるので、加速は力強さこそないが、息継ぎなくシームレスに続く。
一方、ハンドリングに関しては基本的にスローなW140の特性があるので、直6ゆえのポイントを見つけるのは難しい。V12モデルと比較すれば、明らかに鼻先が軽い印象はあって、コーナーでスムーズに向きを変えるのは感じられる。しかし直6エンジンの重心が高いことによる影響や、もしこれにV6が積まれたらどう変わるのか? といったところまで連想させるようなシビアさは感じない、というのが総論である。
【V6SOHC】
明らかに優れたパッケージング。安定したトルクに不満はないがV8の縮小版という印象も……
もう一台のS320は、ラック&ピニオン式のステアリングによって確実性の高いシャープなハンドリングを身に付けている。切り始めに対する応答性も良く、インプレッションしやすいクルマだ。エンジンルームの中で極めてキャビン寄りの低い位置に搭載されるV6ユニットは、前後の重量配分に効果的に働いているのが分かる。パッケージングとして見れば、明らかに直6世代よりも優れている。荒れた路面をいなすクルマの動きからもフロントヘビーな印象は全く感じられず、サイズを超えたスポーティさがある。
加速についても、フラットなトルクが低回転から断続的に発生することで、市街地を走っているようなシーンではV8のS500との違いをとくに感じないほどの実力がある。実は最大値で比較すると、直6の231ps/32・1㎏-mに対してV6は224ps/32・1㎏-mと劣っているのだが、3000~4800回転まで最大トルクを発生し続けるという特性のため、1ランク上のパワー感を実現している。もちろんSクラスのようなクルマにどちらが向いているかと言えば、問答無用でV6ユニットということになるのだろうが、気になるのはV8の特性をそのままスケールダウンしたような個性の薄さ。それを必要十分と納得できればお買い得だが、S500と乗り比べた時に寂しくなるような気もする。様々なデメリットもあるが、やはり直6を積んだSクラスは、唯一無二の個性だったのだと、再認識できた。